Contents
拝み虫とも呼ばれるカマキリは一体何を願うのか
夏は祭りの季節です。全国各地で行われる祭りには様々な意味合いがあります。京都市内にある八坂神社周辺で催される祇園祭もその一つです。
祇園祭の目玉と言えば山鉾巡行です。神域へと向かうために注連縄を切ることから始まるこの巡行のなかに一つ気になる山鉾があります。
それは蟷螂山(とうろうやま)とよばれる山鉾でてっぺんにカマキリが居ます。数ある山鉾の中で唯一蟷螂が動くというからくりが施された山鉾です。
なぜカマキリなのか?と不思議に思ったことから今回の話は始まります。
実はこれは「蟷螂の斧」という故事が由来になっています。カマキリは退くことを知らずどんな強い相手にでも鎌を振り上げて挑んでいきます。そんなカマキリの戦いぶりを現した言葉なのですが昔この場所に住んでいた四条隆資の戦いに挑む姿勢がまさに「蟷螂の斧」だったことから蟷螂山が作られたのです。
しかし本当にそれだけなのでしょうか。
カマキリには何かもっと秘められたものがあるのではないかという考えが頭をよぎります。
ということで今回は「カマキリ」についてお話ししていきましょう。
カマキリは節足動物門の中の甲殻類六脚亜門昆虫綱に属するカマキリ目に分類されます。
羽はありますが実は飛ぶのが苦手で短い距離をほぼ直線に飛ぶことしかできません。
だから蝶や蜻蛉のように飛び回ることは出来ないのです。しかしこの機動力の弱さをカバーするかのように進化したのがその鎌のような二本の前足です。
カマキリはこの鎌を使い獲物を捕らえるのですがこの時の鎌の動きはかなり早いです。普段ののんびりしたカマキリの動きからは想像も出来ない早さです。
そうそう、ハナカマキリと呼ばれる種類のカマキリをご存じでしょうか。ハナカマキリの体は一見花弁のように見えるのが特徴です。これはもちろん花に擬態して獲物を待ち受けるために進化した結果なのです。
日本でよく見掛けるオオカマキリやハラビロカマキリも同様に草木に擬態しやすいように進化してきました。
カマキリは音も立てず忍ぶような動きと周りに擬態しやすい体、そして目にも止まらない早さの鎌による攻撃で生き抜いて来たのです。
しかしカマキリには別の呼び名があります。それは「拝み虫」という呼び名で二本の鎌を体の前で揃えている姿をよく見ることから付けられたものです。
外国でも「祈り虫」と呼ばれることもあるのですがその名の由来も拝み虫と同様です。
しかしカマキリと言えば強い虫というイメージがあります。そんなカマキリが一体何を拝んでいるのかは気になるところですけどね。
拝む蟷螂と拝む灯籠
カマキリを模した山鉾である蟷螂山(とうろうやま)の話をしましたが山鉾は注連縄を切り神域へと向かうものです。
神域とはつまり常世です。常世と「とうろう」と言えば何か思い出しませんか?
そう、「灯籠」ですね。神社や寺院にあるあの灯籠のことです。
灯籠とは元々清く浄められた光を届けるためのものです。灯籠にもいろいろと種類があるのですがそろそろ時間もなくなってきましたので本題へと進みましょう。
以前お話ししましたが古来は常世は常夜と書きました。そのことから神社にある常夜灯は常世を照らすためのものなのかもしれないと言いました。
そして夏の風物詩である灯籠流しも常世へと魂を送るためのものです。
拝み虫と呼ばれる「蟷螂(とうろう)」と魂を運ぶ「灯籠(とうろう)」。この名前の一致は偶然なのでしょうか。
いえ、偶然だと分かっていても話を続けます。
カマキリは英語でmantis(マンティス)と呼びます。
実はこの名前の由来はギリシャ語のmántisなのですがこのmántisという言葉が意味するのは…「予言者」です。
前足を揃えてじっと動かない様子が祈り捧げ神に助言を求めているように見えたのでしょうか。
そして神域を照らす力を持つ灯籠と同じ名を持つカマキリはもしかすると神に仕える存在なのかもしれませんね。
カマキリはどんなに相手が強くとも怯むことなく挑んでいきます。そんな勇敢な心にこそ神様は微笑んでくれるのかもしれません。微笑んでくれるのは神様だけではないかもしれませんけどね。
それでは今夜はこのあたりで。