「提灯火(ちょうちんび)」闇夜に浮かぶ怪火
ある百姓のお話しです。
百姓とは農家のことで田んぼに引いた水を止めることを忘れてしまった男は夜に田んぼへと向かいました。
暗い畦道を歩いていると前方に提灯の光が見えました。
他にも田んぼの様子を身に来た人が居るのかと思いながらも畦道を歩いていくと不意に前方にあった提灯の光が消えてしまいました。
何事かと光のあった場所へ駆け寄ると提灯どころか人が居た痕跡すらもなかったのです。
これが提灯火(ちょうちんび)と呼ばれる怪異のお話です。今回はこの怪火についてお話ししようと思います。
ちなみにこの話は安永の時代に鳥山石燕によって刊行された「今昔画図続百鬼」の晦の部にも記載されています。
提灯火の正体は人魂なのかそれとも
暗い夜道に現れる提灯の光。ただただ浮かぶだけで近付くと消えてしまうと言われる提灯火は特定の地方だけでなく全国各地で目撃されています。
大和の国つまり現在の奈良県に現れた提灯火は雨の日に目撃されています。川の側に現れたその怪火は墓場から墓場へと5キロ近い大変長い距離を飛び回ったと言われています。
奈良県橿原市では提灯火のことを小右衛門火(こえもんび)と呼びます。この名の由来は小右衛門という男が提灯火の正体を暴き討ちとろうとしたのですが分裂した提灯火に返り討ちにあい病に倒れた末に命を落としてしまったという話から来ています。
実はこの話の中に提灯火が大変高い音を発しながら飛び回るという一節があります。
滋賀県つまり当時の近江の国でもこの提灯火は小右衛門火と呼ばれていますがこちらは名前の由来が奈良県のものとは違っていて小右衛門と呼ばれる男が悪事を働き死罪になりました。小右衛門はそのことを恨み彼の怨念が怪火へとなったと言い伝えられています。滋賀県の目撃例では炎の中に青白い男の顔が浮かび上がったそうです。
火に関する怪異や妖怪の伝承は数多く存在します。狸や狐などの動物の仕業だと言われるものや鬼や妖怪などの魑魅魍魎が起こすものなど原因や時代も様々です。
火ははるか昔より人間が利用してきた便利なものです。しかし火は時に人間の命を奪う危険なものなのです。
人の想いも同じです。人のための想いもあれば人のためにならない想いもあります。
あなたもいつか人のためにならない想いに遭遇することがあるかもしれません。その時にどう感じどう接するのかは常にあなた次第なのです。
夕涼みの気持ち良い季節になってきましたが夜道に浮かぶ怪しい光にはご用心を。
それでは今夜はこのあたりで。