「不知火」海に浮かび次第に増える無数の炎

「不知火(しらぬい)」とは海に浮かぶ怪火

ある漁師の話です。
ある晩に彼が海に船をだし良い漁場を探っていました。海岸から数キロほど沖に出た辺りでしょうか。
少し離れたところに漁り火が見えました。
きっと誰かが漁をしているのだろう。漁り火を焚いてるということは魚が寄ってきているはずだと彼は考え漁り火の方に船を漕ぎました。
しかしその漁り火に全く近付くことが出来ません。彼は不思議に思いその炎をよくよく見てみました。
するとその炎は海面ではなくそこよりはるか高くで燃えさかっているのです。
何事かと思ったその時にその炎から分かれるようにして炎がいくつにも増えていくのです。
彼は怖くなりすぐさま陸に向かって船を漕いだのでした。

この話に出てくる炎こそが今回紹介する「不知火(しらぬい)」です。
不知火とは九州地方に伝わる怪異であり狐火や鬼火と同じような怪火のことです。
九州の有明海や八代海に現れてその怪火は現代でも見ることができます。
海岸から数キロほど沖にまず親火と呼ばれる炎か現れます。その親火から分かれるようにして左右に分裂していきます。その数は多いときで数千にもなるそうでかなり長い距離に連なるそうです。
古来では近くの村ではこの不知火は龍神の灯だと考えられていて不知火が現れた日は漁には出なかったそうです。
不知火の最大の特徴は決して近づけないことです。近付くと離れていき離れると近付いてくるのです。

この不知火は安永の時代に刊行された「今昔画図続百鬼」の晦の部にも収録されています。

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不知火の正体と龍神の力

かつては龍神の灯や怪火として恐れられ崇められていた不知火とはいったいなんなのでしょうか。
有明海や八代海では現代でも見ることができます。そしてそれは大気光学現象の一つとされています。
これには有明海や八代海の地形と大気の冷却に加えて海水温の上昇などいろいろな要素が必要です。
これらの要素が組合わさることにより遠くにある民家の光や船の漁り火があたかも目の前に現れたかのように見えるのです。
不知火の特徴である近付くことが出来ない。近付けば離れていくというのは蜃気楼の特徴とも似ていますね。
この蜃気楼と似た現象が有明海などでも起きているのです。
しかしこれは有力視されているとされる原因です。

有力視なので確定ではないのです。干潟の埋め立てや海の汚染により現在ではなかなか目に出来なくなった不知火ですがもしかすると海の汚染などの環境破壊により龍神の力が弱まっているのかもしれません。

話忘れていましたが不知火が起こるのは旧暦の7月の晦日の新月の夜です。しかも風の弱い日だそうです。
この旧暦7月の晦日とは2017年なら8月21日のことです。その次の日が朔、つまり新月なので21日の夜が不知火の現れる夜だということです。

あなたが不知火に出会えるかは分かりませんがもし興味があるのなら九州に足を運んでみてはいかがでしょうか。あなたに龍神の加護があらんことを。

それでは今夜はこのあたりで。

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