「橋姫」橋の守護神となった鬼女
争い事や戦争はいつの世もくりかえされるものです。日本も例外ではありません。いくつもの合戦が繰り広げられてきました。
日本は世界的に見ても山と川の多い国です。孫子の兵法にあるように川は戦いにおいて重要な役割を持ちます。敵側の機動力を下げたり侵入を防ぐことも可能です。
そして川に架かる橋はもっと重要なものです。
その橋を守る女神として祀られているのが今回紹介する「橋姫」なのです。
橋姫に関しては以前紹介した江戸時代に刊行された本「「今昔画図続百鬼(こんじゃくがずぞくひゃっき)」の 雨の部に記されています。
橋姫伝説は古来より続く水神信仰の一つと言われています。しかしこの橋姫は元は一人の女性だったという伝説も残っています。
まずは橋姫がどのような女神なのかからお話ししていきましょう。
橋姫は嫉妬深さと愛らしさを持ち合わせた女神
橋姫という言葉はあまり聞き慣れないかもしれません。しかし彼女は全国の橋に祀られています。
京都府宇治市を流れる宇治川にかかる宇治橋にもこの橋姫が祀られています。そしてこの宇治橋と同じく日本三名橋とされている滋賀県大津市の瀬田川に架かる唐橋にもまた橋姫が祀られているのです。
この橋姫はたいへん嫉妬深い女神だと言われています。そのため彼女が祀られている橋の上で嫉妬にまつわる歌を歌うと恐ろしい事が起きるという伝説があるほどです。
しかし橋姫の由来に関する別の説もあり愛らしいを意味する古語の「愛し(はし)」から橋に転じてのことではないかとも言われています。
橋姫と丑の刻参りは関係があるのか
橋姫について書かれたものはいくつかあり古今和歌集もそのひとつです。古今和歌集のなかでは彼女は愛らしい女性として描かれています。
しかし平家物語に記された橋姫はとても悲しい運命を背負った女性として描かれているのです。
平家物語にはこうあります。
時は第52代天皇である嵯峨天皇の時代です。
ある女性が嫉妬に狂い貴船神社に7日間籠ります。そして彼女は貴船大明神にあることを願いました。
それは「妬みの対象である女性の命を奪うために鬼神へと変えてほしい」というものでした。
そこで返ってきた貴船大明神の答えは過酷なものでした。
その方法とは「鬼になるには姿を変えて宇治川に21日間浸かる」というものだったのです。
彼女は髪の毛を5つに束ねて5本の角を作りそこに三本足のついた鉄の輪を被ります。そして三本の足に松明を点けてさらに両端に火を点けた松明を口にくわえます。
そしてその姿で大和大路を駆け抜けたというお話です。
その姿はまるで鬼のようで目にした者の中にはショックで命を落とした人もいたそうです。
それからというものこの女性は妬みの有無に関わらず誰彼構わず人を殺めたそうです。そして京の都では夜半外出するものが居なくなりました。
この話はまだ続きがあるのですがその話はこれより200年ほど後のお話です。ですのでそれはまた違う機会にお話ししましょう。
ともあれこの話に登場する女性こそが宇治の橋姫なのです。
橋姫のお話はこのあたりにしようと思うのですが先程お話しした平家物語の中に気になる描写がありませんでしたか?
鉄の輪を頭に被りそこに灯した松明。そして貴船神社。
こういった話が好きな方ならピンときたかもしれません。
そう以前お話ししたことのある丑の刻参りですね。ただ実際に丑の刻参りの原点がここにあるのかは分かりません。ですがもしかすると何か繋がりがあるのかもしれませんね。
それでは今夜はこのあたりで。