虫の知らせとは一体なんなのか
「嫌な予感がする。」
生活しているなかでたまに聞く言葉ですね。実際に特に理由もないのに悪いことが起こりそうな気がしたりすることはあります。
こういった予感の事を「虫の知らせ」と呼びます。この虫の知らせについては以前記事に書いたことがあります。
実はこの虫の知らせには由来があって人の体には虫が住んでいるという道教の考えが元になっています。
道教では三尸(さんし)、三虫と呼ばれる三匹の虫が人の体内に住んでいるそうです。この虫は人の行いを監視していて60日に一度天帝の元へ報告しに行くというものです。
そして時を経て日本に伝わった際に三尸九虫と呼ばれることになります。人の体には九匹の虫が住んでいてこれらの虫が人の感情を左右したり時に病気を引き起こすのだとされていました。
この話に出てくる虫が「虫の知らせ」の由来だと言われています。
「疳の虫」という名前を聞いたことがないでしょうか。「癇の虫」とも書かれます、これは幼い子供の中に言われている虫で赤ん坊がよく泣くのはこの虫のせいだとされています。
虫切りなどと呼ばれる手法があります。子供の手のひらにある文字を書いて真言を唱えながら粗塩で手のひらを擦ると指先から白いウネウネと動く虫が出てくるというものです。
この虫も九虫のうちの一匹なのかは分かりませんが古来より人の体には虫が住むと考えられていたのです。
さて、それではなぜ虫は人に「嫌な予感」や「その場を離れなければいけない」というような考えを起こさせるのでしょうか。
寄生虫の生存本能と宿主に迫る危険
最近アニサキスという言葉をよく耳にします。アニサキスは魚介類を宿主とする寄生虫です。この寄生虫が体内に入り込むとアニサキス症を引き起こします。
寄生虫とは他の動物を宿主として生活する動物のことでたくさんの種類がいます。
今では生活環境の変化により感染例がほとんどありませんがサナダムシやカイチュウにギョウチュウは人の消化器官に寄生します。
他にもキツネを主だった宿主とするエキノコックスなども有名ですね。
寄生虫の中には実に恐ろしい進化を遂げたものもいます。カマキリ、コオロギに寄生するハリガネムシやカタツムリに寄生するレウコクロディウムなどが例です。
これらの寄生虫は宿主を操る事が出来るように進化したのです。
カマキリに寄生するハリガネムシは元々水生です。水に住む小さな動物がハリガネムシの卵を取り込み食物連鎖を経てカマキリの体内にたどり着きます。そしてハリガネムシは成虫になるとカマキリの行動を支配して水辺へと向かいます。
水辺にたどり着くと彼らはカマキリの体内から出てきて水へと還っていくのです。
一方カタツムリに寄生するレウコクロディウムはカタツムリの体内で成虫になると同じようにカタツムリの行動を支配して目立つ場所に移動します。そしてあえて鳥などにカタツムリごと食べられます。
そして鳥は糞と一緒にレウコクロディウムを新しい繁殖地へと運んでしまうのです。
宿主に迫る危険と寄生虫の生存本能
さて、お気付きの方もいらっしゃると思いますがこの項のタイトルは前項タイトルの前後が入れ替わっただけです。
言葉とは面白いものです。並ぶ順番が変わればその言葉が持つ意味も変わってしまいます。
先程は寄生虫に寄生された宿主にどんな危険があるのかということでしたが今回はその逆です。
宿主に危険が迫った時寄生虫がどうするのかということです。
アニサキスやエキノコックスは人体に入り込むと何かしら悪影響を及ぼします。
しかしサナダムシを例にとって見てみるとサナダムシは進化の過程で攻撃性というものを捨ててしまいました。
人体に悪影響を及ぼさないように進化したのです。それは寄生している人体に危険が及べば自分にも危険が及ぶからです。
生存本能から有害なものを捨て無害なものへと進化していったのです。
それでは冒頭で話したように人の体内に感情を呼び起こすような虫が居たとします。
動物には人間にはない特別な感覚器官を持つものがいます。地震をいち早く感知するモグラや鳥。熱を感知する能力に長けた蛇もそうです。
もし体内に居る虫が何らかの手段で宿主である人より早く危険を感知したら虫たちはどうするでしょう。もちろん宿主に働きかけていち早く危険を回避しようとするはずです。
それがきっと虫の知らせと呼ばれるものなのでしょう。
人は危険を回避するために五感を働かせます。しかし五感で感じ取れない危険もあるのです。時には外部ではなく内部からのメッセージつまり第六感を信じてみるのもいいかもしれませんね。
それでは今夜はこのあたりで。