椿の美しさと椿の怪異達
襖を開ける度に思い出します。子供の頃に聞いたある生活の知恵を。
「敷居の溝を椿の実でこすると滑りが良くなって開け閉めする時の音が軽減する」
これは椿油による効果なのでしょうが昔から伝わる知恵というのはやはりすごいものです。
椿は古来より日本人に愛されてきた花の一種です。品種により開花時期も花の色も様々ですが秋から春にかけて花を咲かせます。
この花の美しさを一言で表すなら「洗練」でしょうか。日本のバラと呼ばれた理由がそこにあるように感じます。
椿の持つ強靭さと花言葉
さらにこの椿という植物は大変強いです。耐寒性と耐暑性を兼ね備えているだけではなく日陰でも育つという豪傑ぶりです。
端正な美しさとそこから想像できないほどの強さを持ち合わせているのも椿の魅力かも知れませんね。
そんな椿の持つ花言葉は「誇り」、「控えめな優しさ」となっています。誇り高そうと言われればそんな風にも見えますね。
しかし注目すべきは花だけではありません。椿の葉や木も人間と関わりが深いのです。
その木から作られる炭や灰は最高級だとも言われています。さらに葉から取れるエキスは止血の作用があるようで悪魔祓いの際の毒消しなどにも使われていたそうです。
それでは椿についての説明はこの辺りにしておいて次は椿にまつわる怪異をご紹介したいと思います。
椿にまつわる妖怪や怪異たち
花の多くは開花の最盛期をこえると花はしぼんで枯れてしまいます。しかし椿の花はそのままの形で落ちてしまいます。この事が死を連想してしまうために見舞いの花として椿はご法度です。
そのせいか椿にはどこか悲しげで怪しげな雰囲気か付きまといます。
椿に関する怪異の伝承が多いのもそのためなのでしょうか。
凶事を知らせる「夜泣き椿」
これは秋田県にかほ市象潟町の蚶満寺(かんまんじ)に今も残る椿のことで伝承ではこの椿が悲しげな声を出すとしばらくの後にお寺に不幸が訪れるというものです。
このお寺に伝わる七不思議の一つですでに樹齢は700年を越えているそうです。
すりこぎから生まれる妖怪「木心坊」
熊本県に残る言い伝えによれば椿の木を使って作られたすりこぎから生まれると言われる妖怪です。もしかすると椿の木をすりこぎに利用しないようにという戒めなのかもしれません。
しかし椿の木は固くて磨耗にも強いのですりこぎに向いていそうなのですがそれには何か理由があるのでしょう。
人をたぶらかす椿の怪異たち
古椿の霊(ふるつばきのれい)と呼ばれる怪異は今まで何度か紹介した鳥山石燕が刊行した「今昔画図百鬼」にも登場します。
長く生きた椿には木の精霊が宿りやがて人をたぶらかすというものです。
実は人をたぶらかす椿の怪異については日本各地に伝承が残っています。
岐阜県大垣市でかつて発見された円墳には遺骨や遺物が残っていましたがそのお墓に立ち入った人達が次々と祟りにより命を落としました。
そのため円墳は元に戻されその上に椿が植えられたのです。それ以来椿が美女へと姿を変え佇む姿が目撃されています。
そのためこの椿は「化け椿」と呼ばれています。
椿と女性と言えば山形県に伝わる怪談「椿女」でしょうか。
男二人が道を歩いていると通りに女性が立っています。その横を通りすぎようとしたときに女性は男性の一人に息を吹き掛けます。
すると男は蜂に姿を変えてしまいました。女性は道端に咲いていた椿の花に吸い込まれるように消えてしまい蜂となった男もまた女性を追うように椿の花の中に消えました。
そして花は落ちてしまうのです。もう一人の男性が花の中を覗くと蜂中で絶命していたそうです。
そして人はその女性をこう呼ぶようになりました。「椿女」と。
さて、このように椿の怪異に関する話はたくさんあるのですが椿と女性が関係している話も多いように思います。いくら怪しげな雰囲気を持つ花だと言えどやはり椿は美しい花です。
ミステリアス、それもまた女性の持つ美しさのひとつなのかもしれません。
そう、締めの言葉が全く思い付きませんでした。
それでは今夜はこのあたりで。