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「鬼が出るか蛇が出るか」その意味と由来
人生とは先の見えないものです。人生の転機ターニングポイントはどこにあるか分からないものですが転職や結婚などはっきりと分かるターニングポイントはあります。
そんな人生の転機に不安を感じる方もいるでしょう。そんな方の心情を表現する言葉として次のようなものがあります。
「鬼が出るか蛇が出るか」
皆さんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。運命は予測できないものという意味を持つこの言葉は一体どのように出来たのでしょう。
「傀儡(かいらい)」と呼ばれるものがあります。「くぐつ」と読んだ方が一般的でしょうか。
これは操り人形のことで主に木で作られたものの事を指します。
その昔傀儡を使い芸を披露していた傀儡子(くぐつし)が箱から人形を取り出す際にこの箱から一体何が出てくるのかという意味を込めて「鬼が出るか蛇が出るか」と言ったのです。
これがこの言葉の由来なのですがこの箱から出てくるのは鬼なのかそれとも蛇なのかと言われてもどちらが出てこようが嫌なイメージしか湧いてきません。
運命は予測できないという例えだとしたらその先の人生には良いことがないことになってしまいます。
この言葉はきっと本来そういった意味を持っていなかったのかもしれません。
ここで改めてなぜ鬼と蛇なのかを考えていこうと思います。
傀儡と能と鬼と蛇
「鬼が出るか蛇が出るか」という言葉の元となった傀儡子。
彼らは平安時代にはすでに存在していたとされています。傀儡子とは芸を演じて各地を渡る集団のことで現代でいう大道芸人やサーカス団のような存在です。
各地を渡り歩いていた傀儡子達は時代の流れとともに次第にその土地に定住し始め神社などの労務もこなすようになっていきました。
そして彼らの活動は神社だけでなくお寺にも広がるようになり労務だけでなく寺社での芸能活動を行うようになります。
傀儡子達が寺社で行う芸能は人形劇や剣舞に奇術に及びその活動は次第に公家や武家の間でも評判になりました。
その後その芸能は発展を続け「歌舞伎」や「人形浄瑠璃」に「能楽」などへと変わっていったのです。
さて、ついに傀儡を使った芸は「能楽」まで発展しました。能楽に使われる面を「能面」と言います。
この能面にはいろいろな種類があります。翁系に女系、男系などと別れているのですがその中に怨霊系というものがあります。
怨霊系の能面を代表するものと言えば「般若の面」でしょうか。
怨みや妬みを持ちその姿を変えていく女性の顔を表したお面ですが実はそれには段階があります。
角の短くまだ目に人の心を残した状態を表した「生成り(なまなり)」。
そこからさらに怨みが強くなると角が伸びて目はすでに人のものではなくなります。それを「般若」と呼びます。
般若は鬼とされていますがさらにそこから怨みが強くなると耳がなくなります。それはすでに人の顔ではなく動物と化したものそれを「蛇」と呼ぶのです。
般若すなわち「鬼」と「蛇」がここに登場します。
傀儡子が口にした「鬼が出るか蛇が出るか」とはもしかするとこの能面から来ているのかもしれませんね。
今では「運命は予測できない」という意味を持つこの言葉ですがきっと当時は「どんな恐ろしいものが出てくるのでしょうか」という意味で使われたのかもしれません。
傀儡子達は芸能や奇術の他にも呪術も行っていました。傀儡子の女性の事を傀儡女(くぐつめ)と言うのですが傀儡女は遊女に近い存在だったそうです。
そこで当時の情景を思い浮かべてみました。
傀儡子の芸にうつつを抜かす旦那達にしびれを切らす奥様方。
もしかすると「鬼が出るか蛇が出るか」というのは「奥さんを怒らせても知らないよ」という意味が込められているのかもしれません。
それでは今夜はこのあたりで。